若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「あ、おはようございます」

 響子さんは朝の挨拶に応えながら、小首を傾げた。

「なんでここに?」

「お迎えに。出勤を少し遅らせました」

 響子さんに触れたくてうっかり差し出した手。
 ここは響子さんの勤務先だと我に返って、慌てて行き先を鞄に変更する。響子さんは何の疑問も持たなかったようで、すんなりと鞄を手渡してくれた。

 その後、我に返ったように慌てて、

「あ、いえ自分で」

 と取り返そうとするけど、渡すわけがない。

「持つので大丈夫ですよ」

 と笑いかけた。
 駐車場に着くと真鍋さんに気付いた響子さんは、丁寧に礼を言う。

「先週はお世話になりました」

「いえいえ、お元気そうで良かったです」

「あ、はい。すっかり元気になりました」

 真鍋さんが

「どうぞお乗り下さい」

 とドアを開けると、響子さんは乗ってもいいのか迷ったのか、僕をふり仰いだ。頼られている感が嬉しくて、また笑顔が溢れ出る。

「家までで良いですよね?」

「はい」

 座席に身を沈めると、響子さんは心地よさそうに頬をゆるめた。
 警戒心の欠片もないその表情に、この一週間でしっかり距離を詰められたのを実感して心がほっこり温まった。


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