若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「結婚相手は幹人が決めること。どんな相手でもどんな出自の人でも幹人が選んだのなら受け入れること」
たった五歳で将来の選択をした僕に、せめて生涯の伴侶の選択権をと思ったらしい。
祖父は母の言葉を受け入れた。
そして、それから間もなく僕たち家族は祖父の家に引っ越した。
色んなことを言ってくる人がいる。ちゃんとした相手を与えておいた方が良いとか、親の息のかかったプロを当てがっておいた方が安心だとか。
そう言うのは家族全員で笑いながら全て無視した。
「人を見る目は養いなさいね。でも、あなたが生涯のお相手として選んだのであれば、どんな方でもわたくしたちは受け入れ祝福するわ」
母はいつもそう言っていた。
高校生、そして大学に入ったくらいまでは割と自由に付き合ったり別れたりもした。親が決めた相手もこういう出自の相手でという暗黙の了解もなかったから自由だったし、とにかく付き合ってみなければ分からないとも思っていた。
だけど、大学の途中で牧村商事に出入りするようになると否応なしに慎重になった。親経由ではなく僕自身に直接寄ってくる蝿のような人間が増えたのだ。
政略結婚を持ちかけてくる相手も多かった。すり寄ってくる相手もいれば色仕掛けも多く受けた。
結果、社会人になる頃には決まった相手を持つことはなくなり、海外駐在の間には付き合った相手もいたが、それもすぐに終わった。
違う。この人じゃない。
その感覚がいつも付きまとっていた。
そのせいか、いつだって長くは続かなかった。
二十九歳の時に祖父から社長業を譲られた。社長になった後も、数年の間、祖父は会長として陰に日向に色んなことを教えてくれた。
去年、祖父が亡くなった。最期まで、結婚しろとは一度も言われなかった。
「幹人はどんな人と結婚するんだろうな?」
と聞かれることはあったけど。
後悔があるとしたら、祖父に結婚相手を紹介できなかったことと、ひ孫を見せてあげられなかったこと。三十そこそこで結婚していれば見せられたかも知れない。
だけど出会えなかったのだから仕方ない。
母がもぎ取ってくれたこの権利、しっかり行使するつもりでいるのだけど、真面目に考え過ぎているのか逆に相手が見つからない。
いつか出会えるだろうから。とにかく四十までは待ってください。と、心の中で呟く。
もし、四十になっても見つからなかったら考え直そうと思っている。ここで牧村の血を途切れさせる選択はできない。そこまで引きずればさすがに妥協できるのではないかと思っていた。
たった五歳で将来の選択をした僕に、せめて生涯の伴侶の選択権をと思ったらしい。
祖父は母の言葉を受け入れた。
そして、それから間もなく僕たち家族は祖父の家に引っ越した。
色んなことを言ってくる人がいる。ちゃんとした相手を与えておいた方が良いとか、親の息のかかったプロを当てがっておいた方が安心だとか。
そう言うのは家族全員で笑いながら全て無視した。
「人を見る目は養いなさいね。でも、あなたが生涯のお相手として選んだのであれば、どんな方でもわたくしたちは受け入れ祝福するわ」
母はいつもそう言っていた。
高校生、そして大学に入ったくらいまでは割と自由に付き合ったり別れたりもした。親が決めた相手もこういう出自の相手でという暗黙の了解もなかったから自由だったし、とにかく付き合ってみなければ分からないとも思っていた。
だけど、大学の途中で牧村商事に出入りするようになると否応なしに慎重になった。親経由ではなく僕自身に直接寄ってくる蝿のような人間が増えたのだ。
政略結婚を持ちかけてくる相手も多かった。すり寄ってくる相手もいれば色仕掛けも多く受けた。
結果、社会人になる頃には決まった相手を持つことはなくなり、海外駐在の間には付き合った相手もいたが、それもすぐに終わった。
違う。この人じゃない。
その感覚がいつも付きまとっていた。
そのせいか、いつだって長くは続かなかった。
二十九歳の時に祖父から社長業を譲られた。社長になった後も、数年の間、祖父は会長として陰に日向に色んなことを教えてくれた。
去年、祖父が亡くなった。最期まで、結婚しろとは一度も言われなかった。
「幹人はどんな人と結婚するんだろうな?」
と聞かれることはあったけど。
後悔があるとしたら、祖父に結婚相手を紹介できなかったことと、ひ孫を見せてあげられなかったこと。三十そこそこで結婚していれば見せられたかも知れない。
だけど出会えなかったのだから仕方ない。
母がもぎ取ってくれたこの権利、しっかり行使するつもりでいるのだけど、真面目に考え過ぎているのか逆に相手が見つからない。
いつか出会えるだろうから。とにかく四十までは待ってください。と、心の中で呟く。
もし、四十になっても見つからなかったら考え直そうと思っている。ここで牧村の血を途切れさせる選択はできない。そこまで引きずればさすがに妥協できるのではないかと思っていた。