若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 車に乗って程なく眠ってしまった響子さんは、当然のように、アパートに着いてもぐっすり眠っていた。
 起こしたくない。このまま寝かせてあげたい。でも、車で眠っても疲れは取れないし、何より僕も出社のタイムリミットが迫りつつある。
 名残惜しいと思いながら響子さんの肩に手を置いた。

「響子さん、響子さん。着きましたよ」

 何度か名前を呼ぶと響子さんがうっすらと目を開けた。
 でも、ぼんやりした表情の響子さんは多分まだ半分夢の中だ。開けた目はすぐに閉じてしまう。

「部屋に入りましょう?」

 響子さんの頬に手を添えてもう一度声をかけると何とか目を開けて小さな声で「はい」と返事をしてくれた。
 手を取り腰を抱き、寝ぼけ眼の響子さんを車から下ろす。思う存分触れ合えるのを役得と思いつつ、響子さんの手を引きアパートの外階段に向かう。

「響子さん、可愛いので寝ぼけてても良いんですけど、階段は危ないので気を付けてくださいね?」

 響子さんは分かっているのか分かっていないのか、小さく頷いた。
 本当に大丈夫かという危なっかしい足取りだったけど、なんとか一緒に階段を上り終える。

「鍵、開けられますか?」

「あ……はい」

 鞄を差し出すと、響子さんは鞄を受け取らないままに外ポケットに手を突っ込み鍵を出した。

「あ」

 という響子さんの声とともに、取り落とした鍵が床に落ちてカシャンと音を立てた。響子さんと手を繋いだまま、反対の手で鍵を拾う。
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