若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
4.
 そして、そのわずか数日後。
 僕は運命の出会いを果たした。

 取引先に行くのに少し手前で車を降りて一人で外を歩いていた。早く着いたのでコンビニに寄ろうと思って。
 曲がり角、出合頭に腕の中に飛び込んできたのはスレンダーな長身にサラサラの長い髪の女性だった。ドンとぶつかり、

「あ」

 と彼女が声を上げるのと、

「すみませんっ」

 と僕が慌てて謝罪を口にするのはほぼ同時だった。
 彼女はパッと顔を上げて僕を見た。
 その黒い瞳が揺れる長い髪が抜けるように白い肌が、全てが目に飛び込んで来た。彼女以外の世界が急速に遠のいていく。ガシッと胸を鷲掴みにされたような感覚に襲われ、ドクンドクンと怖いくらいに胸が高鳴っていた。
 なんだこれ!?
 彼女から目が離せない。
 この人だこの人だこの人だ。
 脳内に出会いを祝福する鐘の音が聞こえる。
 彼女の周りがキラキラと光り輝いていた。
 ちょっと待って。本当に!?
 本当に、彼女が僕の運命の人!?
 そう思って焦っていると、彼女は苦痛に耐えるような表情で眉を顰め、そのままぐらりと身体がかしいだ。

「え、大丈夫ですか!?」

 驚いて両腕で彼女を抱き止める。ぶつかった時の衝撃? いや、そんな勢いでぶつかってはいない。

「すみません。大丈夫です」

 彼女は気丈にもそう言うが、全く大丈夫そうには見えなかった。
 ん? この匂い……。もしかして。

「とにかく、端に移動しましょうか」

 通勤時間帯の駅側は人通りも多い。彼女を支えて道の端に移動する。

「座った方が楽かな」

 と言っても、ベンチがある訳ではないけど。

「あ、いえ、えっと壁か何かあったら」

 言われるがままに壁に寄りかかれるようにしながらも、壁に寄りかかるくらいなら、僕が支えるのにと思ってしまう。
 この人だ。絶対に離しちゃダメだ。
 目が彼女に釘付けだ。
 最初に見た時より明らかに血の気が引いている彼女は、そのままズルズルとしゃがみ込んでしまう。倒れ込んだりしないように、そっと支えながら一緒にしゃがみ込む。
 顔色悪いな。貧血か?
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