若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
5.
 仕事の間はしっかり頭を切り替えた。だけど、切り替えることを意識しないといけないくらいには彼女のことで頭がいっぱいだった。
 最初の仕事は一時間。終わった時には真鍋さんはまだ戻っていなくて、二件目の取引先にはタクシーで移動した。打合せの後はランチ会食もあったから、次に真鍋さんに会えたのは十三時過ぎ。

「先ほどはお迎えに上がれず申し訳ありませんでした」

 ドアを開けながら真鍋さんが言う。

「いえ、全く問題ないです。彼女は大丈夫でしたか?」

 後部座席に乗り込みながら確認する。
 半ばムリヤリ車に乗せてしまったが、大丈夫だっただろうか?

「体調、かなり悪そうでしたよ。なので、お荷物を持って部屋の前まで送らせて頂きました」

 そこで、真鍋さんはドアを閉めようとした手を一瞬止め、「そうでした」とスーツの内ポケットに手を入れる。

「こちらが後部座席に落ちていました。中は拝見しておりませんが名刺入れと見受けられます」

 渡されたのはシンプルな茶色の革の名刺入れだった。

「彼女のものでしょうか?」

「おそらく。すみません、すぐに気づかず。ギリギリお迎えが間に合いそうな時間だったのもあり、急いで移動してしまって。しかも結局間に合わずで」

 その言葉を聞いて思い浮かんだのは、彼女の家はあの辺りから片道三十分以内、そして、でかした、真鍋さん!という言葉。

「全く問題ないですよ」

 むしろ、きっかけをありがとう!

「家は分かっていますよね? 教えてください。調子が悪そうだったし後で差し入れ持って届けに行きます」

「かしこまりました。後ほど、あの方のお宅までお送りしますね」

 そう言って、真鍋さんは今度こそドアを閉めた。
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