若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 十五時半。三つ目の訪問先から戻ると、秘書に

「お帰りなさい」

 と出迎えられた。
 デスクのパソコンのスイッチを入れ立ち上がるまでの間、積み上げられた書類に目を通す。
 そうだ。言っておかなくては。

「十六時から十七時の会議が終わったら、今日は帰りますね」

 最後の会議は自社の会議室で開催予定。新規投融資案件の事前説明だったか? 延長するような内容ではないから、多分予定通りに終わるだろう。

「珍しいですね。フレックスですか」

「そう。大丈夫だよね?」

「はい。急ぎの案件もありませんし、そちらに置いておいたものも来週でも問題ありません」

「ありがとう。良かった」

「……何か楽しいご予定ですか?」

「ん?」

 そんなに顔、ニヤけてる?
 まずいな引き締めておかなくては。

「そうだね。……これまでの人生で一番素晴らしい予定かな」

「人生で一番、ですか」

 思わず口を突いて出てきた言葉に秘書は目を見開いた。だけど、次の瞬間、笑顔で

「楽しんできてください」

 と言ってくれる。

「ありがとう」



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