若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 十七時、予定通り仕事を終えて、まずは地下街に降りてドラッグストアに向かう。便利だとは思っていたけど、オフィスが街中にあって良かったとこんなに実感したのは初めてだった。
 何が良いか分からないから、色々と買い揃える。鎮痛解熱剤や風邪薬は薬剤師さんに相談して数種類。後はおでこに貼るジェルシートとスポーツドリンク。経口補水液の方が良いだろうか? それから、ミネラルウォーターにお茶も。
 お粥はデパ地下で選んだ無添加国産の卵粥。念のため、梅のお粥も買っておく。卵はアレルギーがある人もいるし。お粥の他におにぎりも購入。こっちは自分用だが彼女がおにぎりの方が良さそうなら譲れば良い。
 もっとあれもこれもと買いたくなるが自重する。今日だけじゃなく、明日の分は明日持って行った方が良い。それを口実にまた会える。
 買い物を終えて、オフィスの地下駐車場に向かう。

「ごめんね。お待たせ」

「いえ、お買い物は済まれましたか?」

「うん。欲しいものは全部買えた。だから、このまま真っ直ぐ彼女の家に向かってもらえる?」

「かしこまりました」



 彼女……響子さんの家は、会社から車で三十分弱だった。自宅からも三十分くらいの隣の市。
 こんなに近くに住んでいた。僕の運命の人。
 もうすぐ会える。
 胸の高鳴りが抑えられない。
 会社を出た頃はまだ薄明かりが残っていた空も、彼女の家に着く頃には真っ暗だった。
 住宅地の真ん中に彼女の住むアパートはあった。

「こちらの二階、右から二番目のお部屋です。若園様と表札が出ています」

「ありがとう」

 真鍋さんには道中、朝送った時の響子さんの様子を根掘り葉掘り聞いてきた。相当具合が悪そうで、心配で胸が潰れそうだ。

「いってらっしゃいませ」

「うん、行ってきます。さっきも言ったけど、何時になるか分からないから今日は帰って良いからね。一週間お疲れ様でした」

「社長もお疲れ様でした。そして、……頑張ってきてくださいね。ファイトです」

「うん。ありがとう」

 真鍋さんには、一方的に自分が彼女を運命の人だと認識したことを伝えた。元々祖父の運転手だった真鍋さんとの付き合いは長い。これからも、響子さんとの間を行き来するなら事情を知ってもらった方が心強いと思って打ち明けた。
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