若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「頭痛がひどそうだったので頭痛の薬、後風邪薬など何種類かと、熱冷まし用のジェルシートとパックのお粥とか色々。適当にですが」

 手に持ったビニール袋の重みに従って左腕がダランと下がっていく。
 ごめん、それ重いよね?
 お粥とかペットボトルとか入ってて、それなりに重量感がある。病人に持たせるもんじゃなかった。
 響子さんは押し開けた金属製のドアにもたれるような感じで自分の身体を支えていた。本気で体調が悪そうだ。

「ありがとうございます」

 そんなに辛そうなのに響子さんはお礼を口にし、更に

「いつかお礼しに行きます」

 と頭を下げる。そして、そのまま身体がぐらりとかしいだ。
 危ない! と腕を伸ばして抱き止めて、その身体の暑さに驚く。慌てておでこに手を当てる。
 あつっ。朝とは明らかに違う高熱。

「すごい熱ですよ」

「……そうですか?」

 そうですかって、響子さん、何を他人事みたいに……。

「寝れば治るんで。薬、ありがたく使わせてもらいます」

 いや、寝るだけで治るか?

「声もガラガラです」

 過労かと思ったけど、それだけじゃないだろう。
 早く休ませてあげなきゃと思うけど、このまま一人で置いておいたら危険なのではという思いが強過ぎて……。

「風邪ひいたっぽくて」

 そう言いながら、響子さんはズルズルと床にへたり込んだ。

「若園先生!?」

 倒れ込まないように一緒に腰を落としながら全身を支える。
 危なかった。一瞬、響子さんと呼びそうになった。

「大丈夫ですか!?」

 そう聞きつつも、絶対大丈夫じゃないだろうと思う。
 呼吸も荒いし小刻みに震えている。何より声をかけても反応がない。

「失礼します」

 そう断って、響子さんの脇の下から腕を回す。グッと力を入れて抱き起こすと響子さんの顔が自分の肩に乗り、自分の顔に触れた。直に触れた体温の高さに焦りつつも、一気に近くなった距離に幸せを感じる自分がいた。
 響子さんを抱えたまま靴を脱ぎ、家の中へと運び込む。背後でバタンとドアが閉まる音がした。



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