若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
6.
 響子さんの部屋に来たのが十八時過ぎ。
 響子さんをベッドに寝かせて父に電話をして、足りないものがないかを確認し終わった十九時前にはもうやることはなくなってしまった。
 それでも、響子さんの寝顔をチラチラ見ながら、持ち帰ってきた仕事を片付けていれば時間はあっという間に過ぎる。
 途中で、失礼して買ってきたおにぎりを食べさせてもらった。この様子ではおにぎりよりお粥の方が良さそうだし、おにぎりの消費期限は早いから。

 気がつくと二十二時を過ぎてしまった。このまま、ここにいて大丈夫だろうかと心配になってくる。
 一人暮らしの若い女性の部屋だ。見ず知らずのいい年した男が勝手に上がり込むのはどうかと思う。本当は病院に連れて行くとか、医者(父)がいる我が家に連れて帰るとか、そっちの方が良いのかもとも思った。けど、過労から来る風邪なのはほぼ間違いないのに、最寄りの救急病院(響子さんの勤務先)に担ぎ込んで大事にするのは申し訳ない。それ以上に自宅で寝込んでいたはずが、目が覚めたら知らない家にいるとか言うのもどうかと思う。
 かといって、この状態の響子さんを置いては帰れない。

 そんなことを考えていると、響子さんの長いまつげがかすかに震え、パッと目を開けた。ぼんやりと天井を眺める様子を見ると、気分が悪くて目が覚めたとかではなさそうでホッとした。

「目、覚めました?」

 どう話しかけようと思っていたのに、気がついたらそんな予行練習は全部すっ飛んでしまい、ベッドに近寄り声をかけていた。
 響子さんは不思議そうに視線をさまよわせた。

「気分はどう?」

 もう一度声をかけると、こちらを見て何度か瞬きする。
 良かった。不審者認識はされていなさそう。
 それから、響子さんは

「……お粥」

 と弱々しくつぶやいた。
 お粥?
 なんともひもじそうなその様子があまりに可愛くて、思わず吹き出してしまう。
 しまった。ごめん。体調悪い人相手に笑うとかダメだよね。

「お腹、空きましたか?」
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