若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 チン
 あたため終了。うん。良い感じに湯気も出てる。

「器、お借りしますね」

 コンロの上の小さな食器置き場から丼を出す。自炊している形跡がほぼなかったので、器も使っていないだろうと軽く洗って水を切りキッチンペーパーを拝借して軽く拭う。

「そのままでも良いですよ」

 と響子さん。
 言われてみると、袋の口を切ってそのまま食べることもできる作りだった。
 そんなこだわらない、飾らない性格も可愛い。

「でも熱いので、一応移します。お腹空いてるんですよね? 食べやすい方が良いでしょう」

「……確かに」

 素直な反応がまた可愛かった。
 多分、響子さんが何を言っても可愛いと思うのだろうなというくらいには、響子さんは特別だった。
 丼に移して響子さんの元へ急いで運ぶ。

「すみません。なんか変な感じですがカレー皿だとこぼしやすいかと思って」

「いえ、十分です」

 スプーンを渡すと、響子さんは早速、お粥をスプーンにすくいフーフー息を吹きかけて冷ましてから口に入れる。
 一瞬変な顔をした響子さんは、そのまま文句も言わずにせっせとスプーンを口に運ぶ。
 口が不味いんだろうなと思う。でも、文句一つ言わずに実に満足そうな顔をしてお粥を食べる響子さん。

「お茶も飲んでください」

 途中で一度声をかけ器を受け取り、麦茶の入ったコップを手渡す。

「すみません」

 スポーツドリンクと同じようにこちらもゴクゴク飲み干してくれる。空のコップを受け取り、お粥を渡すと引き続き黙々と食べる。
 無心に食べる姿がなんとも可愛くてならない。
 十分ほどで全部食べ終わると、響子さんは不意に顔を上げて、

「そう言えば、牧村さん、夕飯は?」

 と聞いてきた。

「すみません。若園先生が寝ている間におにぎり食べさせてもらっちゃいました」

「それなら良かったです」
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