若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 ああそうだ。薬飲んでもらわなきゃ。
 まだ熱が高そうだから、鎮痛解熱剤かな。

「飲んでください。幾つか買ってきたんですが、これがよさそうだったので」

 薬効とか確認したいかなとパッケージごと渡すと、やはりしっかりチェックしている。この薬で問題なかったようで、響子さんが開けようとするのを見てそっと取り返して箱を開けて、

「はい」

 と規定量の錠剤を渡し、更に反対の手に水も渡す。

「ありがとうございます」

 響子さんはゴクリと言われるままに薬を飲み込んだ。
 グラスを受け取ると、

「お世話かけました。本当にありがとうございました」

 と丁寧にお礼を言われる。

「もう大丈夫そうですか? というか、誰かご家族とか」

 一人暮らしなのは見て分かる。食器なども一人分しかなかったし、この物の少ない部屋に誰か……そう彼氏のような存在がしょっちゅう出入りしているようなこともなさそうだ。それは嬉しい。正直、ものすごく嬉しい。
 けど、この体調で一人というのはやはり心配だ。

「いません。見ての通り、侘しい一人暮らしです」

 侘しい一人暮らしはともかく、近所にも頼れる家族はいないということ? そうか、ならきっと自分の出番で問題ない。

「そうですか。……じゃあ、泊まります」

 気がついたら言っていた。
 いや、さすがにそれはどうだ? 自分で言っておいて、脳内で突っ込みを入れる。

「は?」

 やっぱり、響子さんも驚いている。

「いえ、お粥も食べられたし薬も飲めましたが、まだ熱も高いですし」

 そう言って、おでこに手を当てる。軽く38度はありそうだ。もしかしたら、もっとあるかもしれない。

「寝てれば治りますよ」

 ……いや、寝てるだけじゃ治らないと思います。
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