若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 泊まらせろと言いたいわけじゃない。だけど、自分の状態は分かって欲しい。これはちょっと風邪引いたとか寝てれば治るとかそういう感じじゃないと思う。

「いえでも、想像でしかありませんが、朝、あのまま電車に乗ってたら、多分、ここまで辿り着けてなかっただろうし、夕刻に私が来なかったら、動けずに大変なことになっていたかも知れませんよ」

 そう言うと、響子さんはうっと言葉に詰まった。
 そうして、

「……お世話かけました」

 と深々と頭を下げた。

「いえ、お役に立てたなら幸いです」

 素直な響子さんが可愛くて、また笑みがこぼれてしまう。いや、そうじゃないだろ?

「まあ、一人暮らしの女性の部屋に泊まると言うのはさすがにナシかも知れないですね。明日、様子を見に来ます。それまでに何かあったら連絡ください」

 人格が崩壊しそうな気がして、一旦引き上げることにした。
 名刺を出して、プライベートの番号を書き込む。携帯と自宅、メールアドレスも。

「何時でも飛んでくるので連絡くださいね」

 そう言って手渡す。
 できるなら、今ここで響子さんの携帯に番号を登録させて欲しい。そして、響子さんの番号も教えて欲しい。
 下心アリと思われたくないから、言わないけど。

「あの……」

「はい」

「なんで、そんなによくしてくれるんですか?」

「え?」

 それ、今聞くの!?
 どうしよう。ただの親切な人に徹した方が良い?
 いやダメだ。嘘をついたりごまかしたりする場面じゃない。
 運命の人だと思った……いや、それはさすがに重そうだ。こう言うのって、なんて言うんだっけ?
 そう!

「一目惚れしました」

 響子さんの目をじっと見つめながら伝えた。

「……は?」

「若園先生に一目惚れしてしまったんです」
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