若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 今日はベッドではなく小さな座卓でお粥を食べた。
 昨日とは違い、今日はカレー皿だった。

「こうするとリゾットぽいですね」

 確かに。
 時刻は午前八時半。ふと気になって聞いてみる。

「牧村さんは?」

「実はまだです。余ったものをもらおうかなと思って」

「じゃあ、ぜひ一緒に食べてください」

「いいんですか?」

「もちろん。大体、全部牧村さんが持ってきてくれたものですよ」

 そう言うと、

「ありがとうございます」

 とお礼を言われた。
 いやいや、それじゃあアベコベでしょ。
 昨日の一目惚れ発言と言い、どう考えても普通じゃない。
 あ、そうか。

「結婚詐欺だ!」

 ふと思い付いて、ポンと手を打つ。

「え?」

 と、言う牧村さんの声を聞き、自分が頭の中だけじゃなく口に出していたことに気づく。
 ちょっと待て、今私なんて言った?
 ……結婚詐欺!?

「わ、あ、ごめんなさい!」

 いくらなんでもど直球過ぎだ。
 もし仮にそうだとしても助けてもらったのは本当だし、現在進行形でお世話になっている人に言う言葉じゃない。まだ、なんの詐欺も働かれていないわけだし、私は結婚詐欺に引っかかるタイプでもないし。
 でも、焦る私を横目に、牧村さんはなぜかクスッと楽しげに笑った。

「すみません。いえ、大丈夫ですよ。確かに怪しいですよね」

「……はい」

 そんなことはないと言う場面だったかも知れない。けど、だって、やっぱり怪しいし。

「とにかく、食べてしまいましょうか。冷めると味が落ちるので」

 そう言われて、誤魔化された?と思いつつ、お粥を食べに戻った。
 結婚したいとも思っていないしパートナーも求めていない私には、本当の彼が何であっても、私にとってはただの親切な人なのだから、と。



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