若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 食後、入れてもらった甘いミルクティーを一口飲み心を落ち着かせてから、私は深々と頭を下げた。

「……大変失礼いたしました」

 座卓の上には牧村さんの名刺、運転免許証、社員証が並ぶ。加えて、私のノートパソコンには大手新聞社による牧村商事の社長インタビュー記事が表示されていた。

「僕が調べてお見せしても不信感は拭えないでしょうし、良かったら検索かけてみてください」

 と笑顔で言われて出て来た記事はいくつもあった。そこに表示された写真はどれも目の前にいる牧村さんのものだった。

「ホント、助けてもらっておいて大変な失礼を……」

「いえいえ、自分で言うのもなんだけど本当に怪しいと思うんで。疑いが晴れて良かったです」

 ……仏か?
 笑顔が眩し過ぎて怖いくらいだ。

「で、ですね。疑いが晴れたところで、突然ですが……」

 と牧村さんは私の目をじっと見つめた。
 この人は日本人にしては珍しいくらい視線を合わせてくる。私は平気だけど、耐えられずに目を逸らす人もいるだろうに。

「結婚を前提に付き合ってください」

「……は?」

「すみません。あの、指輪とか何もまだ用意できてないんですが、若園先生が……響子さんが魅力的過ぎて、のんびりしている間に誰かに取られたらと思ったら、今すぐ言わなきゃ、と」

「……いや、私が魅力的? 目、大丈夫ですか?」

 百歩譲ってフォーマルな格好で学会後の食事会に出た時とか、白衣で診察中とかならまだ分かる。あるかも知れないと思う。けど、昨日からこの人に見せているのは、髪ボサボサ服よれよれ、何なら顔色もどうかしてそうなコンディション最低な自分だ。
 これのどこを取ったら『魅力的』と言う言葉が出てくる?

「大丈夫です。視力は両目とも1.5です!」

「……それは良かったデス」
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