若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 顔が超絶好みだった? いやー、そこまでの顔じゃないだろう。むしろ顔面偏差値なら彼の方が高いくらいだし、彼の周りには幾らでももっと綺麗な女性がいそうな気がする。

「あの、ですね。本当に一目惚れなんです。インスピレーションって言うんですか? 昨日、出合頭にぶつかって、私を見上げた若園先生と目が合った瞬間に、この人だ!と」

 ……目、合ったっけ?
 確か、勢いよく上向いた瞬間、立ちくらみに襲われた気がする。
 そうか。牧村さん的には目が合ったんだ。ふーん。

「いきなり結婚が無理なら、まずはお付き合いだけでも!」

 食い気味に言われて、

「お友だちからじゃないんですね」

 と答えると、

「そこは譲れません」

 とやけにキッパリ返された。

「……ダメですか?」

 伺うように顔を覗き込まれる。
 嫌いじゃない。空気感も顔も悪くない。というか、すごく良い。そう一緒にいて疲れないのが特に良い。

「えっとですね、私、全く恋愛向きじゃないですよ」

「大丈夫です!」

「仕事のが大切だし、夜勤あるし呼び出しあるし、料理も掃除もいわゆる家事はそもそもやる気もないし」

 片付けが面倒くさいからってモノは最低限。だから、部屋は散らからない。人間らしい生活はしたいので週一で掃除機くらいはかける。
 食事はコンビニ、インスタント食品、たまにファミレスとか適当に。家で作ると片付けも生ゴミの始末も面倒だから作らない。家に最低限の食器や調理道具があるが、それは大学に入った時に母が用意してくれたからだ。学生時代はお金もなかったので少しは自炊もした。亡くなった母が買ってくれたものだったから、使わなくなってからも置いてあっただけの代物だ。

「てかむしろ、私は嫁に行きたいんじゃなくて嫁が欲しいんですよね」

 帰って来たらあったかいご飯が出てきてお風呂が沸いてるとか最高だ。掃除もゴミ出しもしなくて良くて……。うっとりする。
 って、今時、そんな専業主婦持てる男性なんてほとんどいないだろうし、女性の社会進出だとかいわれているのに、こんな話ししたら顰蹙もんだ。
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