若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「ごちそうさまでした」

 手を合わせると、

「お粗末様でした」

 と返事が返ってくる。

「いえ、全然、お粗末じゃないです。ものすごく美味しかったです」

 そう。胃の腑に染み渡るだけじゃなく、心に染み渡る味だった。
 こんなもの一人で食べたら泣くぞと思う。あまりに懐かしすぎて……。

「そうですか? ありがとうございます」

 牧村さんはまたにこりと笑う。
 本当に笑顔がまぶしい。

「ごちそうさまでした」

 牧村さんも手を合わせて挨拶をし、それから鍋の蓋を閉め土鍋をキッチンのコンロに移動する。
 すごく美味しかったけど、締めのうどんまでは食べられなかった。食べたい気持ちはあったけど、さすがに入らない。
 食べたいなと言う気持ちは顔にしっかり出ていたようで、牧村さんは「それじゃ、夕飯は鍋の残りでうどんにしますか?」と言ってくれた。こくこく頷くと、牧村さんはまた嬉しそうに笑っていた。



< 48 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop