若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 昼食後、やけに満たされた気分で布団にもぐり込んだ。
 よく寝て、よく食べて、薬も飲んだし、きっと明日には元気になっているだろう。
 明日からまた激務開始だ。それまでに、しっかり鋭気を養っておかなくては。

 台所では牧村さんが洗い物をしている。
 ……こんな人もいるんだなぁ。
 鍋も絶品だったし、つみれもムチャクチャ美味しかった。食べた後には後片付けまでしてくれるし、こんな良い人がなんで独り身なんだろう? しかも、大企業の社長さん? 嘘でしょう?

 ホント、やっぱり結婚詐欺なんじゃないかな?
 ほら、本物の牧村さんのそっくりさんとか。
 そうか。そうだよね。うん。
 名刺なんて幾らでも作れるし、偽装免許証だってお金出せば買えるんじゃなかったっけ? 社員証なんて、それっぽく作っておけば分かりっこないし。
 記事はごまかせないけど、そっちは顔がそっくりなら本人のものを拝借すれば問題なしだ。
 お世話になったしご飯美味しかったし、まだ何もされてないから別に良い。

 そっか。お礼しなきゃと思ってたんだ。
 そうだな。少しくらいならお礼代わりにだまされたフリしてお金出してあげても良いのかも。
 詐欺は良くないけど、分かってて出すなら良いよね……。
 ああでも、他に被害者出ると大変だからダメかも。

 そんな失礼なことを考えながら、徐々に意識が遠のいていく。
 ここ数日間の睡眠不足、いや、ここ数年の睡眠不足を補うかのように、幾ら眠っても眠り足りなかった。



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