若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 食後、お皿を洗って干した後、僕は響子さんの前に徐に名刺、運転免許証、社員証を並べた。

「ご確認ください」

 そう言いつつ、これだけじゃ足りないとも思う。こんなもの幾らでも偽造できるから。

「若園先生はパソコンお持ちですか?」

「あ、はい。……いります?」

「はい」

「……ええと、はい。ちょっと待ってくださいね」

 面倒臭そうながらも昨日からの僕の行為に恩を感じてくれているようで、響子さんは壁際のデスクから素直にパソコンを持って来る。

「僕が調べてお見せしても不信感は拭えないでしょうし、良かったら検索かけてみてください」

 響子さんは僕の名刺を見ながら、素直にパソコンに文字を入力する。そして、あれ?というような顔をして、またマウスを操作して文字を入力。徐々に難しい顔になって、真顔で何かしらを読み込むのに三分くらい。徐にパソコンから顔を上げ、僕を見た響子さんは、さっき僕が入れてきたミルクティーをごくりと飲むと、

「……大変失礼いたしました」

 と深々と頭を下げた。
 パソコン画面を覗かせてもらうと、以前取材を受けたどこやらの新聞社の記事が表示されていた。それなりに大手商社なので新しい事業を始めた時とか、社長に就任した時とか、折に触れて取材を受ける。面倒だと思いつつも、これも会社の知名度アップに必要なこと、ひいては株価アップに必要なことだと割り切って受けていた。
 だけど、会社のためじゃなく自分のために役立った。季節外れのお年玉をもらった気分。

「ホント、助けてもらっておいて大変な失礼を……」

「いえいえ、自分で言うのもなんだけど本当に怪しいと思うんで。疑いが晴れて良かったです」

 本当に、確かに『結婚詐欺』っぽい手口(じゃないけど)だなと思う。響子さんは美人だしステータスのある仕事をしているけど、ヨレヨレのところを助けて親切にして家にまで上がり込んで、更に翌日にまで親切そうな顔して押しかけて……。
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