若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 いや、冗談抜きで怪しい。結婚詐欺じゃなかったらストーカーと言われてもおかしくないかも。
 いやいやいや、響子さんが疑り深い人じゃなくて良かった。顔には人の良さそうな笑顔を貼り付けながらも、内心冷や汗ものだった。
 と言うか、響子さん、危ないですよ。
 こんなに人が良かったら、いつ誰にだまされるか分かったもんじゃない。これはもう、早々に僕と相思相愛になってもらうしかないと思う。で、結婚して僕にあなたを守らせて欲しい!

「で、ですね。疑いが晴れたところで、突然ですが……」

 本当に突然すぎだよな、と思いつつ、真面目な顔で響子さんの目をじっと見つめて、

「結婚を前提に付き合ってください」

 と伝えた。

「……は?」

 当然のように、響子さんは何言ってるんだこの人、という顔になる。

「すみません。あの、指輪とか何もまだ用意できてないんですが、若園先生が……響子さんが魅力的過ぎて、のんびりしている間に誰かに取られたらと思ったら、今すぐ言わなきゃ、と」

 そう! 指輪も花束もロマンのかけらもないどころか、寝込みを襲ってすっぴんノーメイクの女性へのお付き合いの申し込み。しかも、『結婚を前提に』なんて枕詞付き。
 ごめん、響子さん! いくら何でも、ちょっとアレだったかな?
 改めて、もっとロマンチックに本当のプロポーズするから、今はとにかく「うん」か「はい」って言ってください。

「……いや、私が魅力的? 目、大丈夫ですか?」

 ん? 突っ込むの、そこ?

「大丈夫です。視力は両目とも1.5です!」

「……それは良かったデス」

 出会ったばかりでのお付き合いの申し込みより、『魅力的』という言葉に引っかかりを覚えているらしい響子さん。
 魅力的ですよ? 本当に素敵だと思ってます。

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