若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「え、本当に?」

 響子さんは、まさか今食べられるとは思っていなかったという顔で目を丸くした。
 うん。これは、鍋に入れる予定だったものも使ってしまえ、だな。

「まだ肉が残っているので、ちゃちゃっと作ってきますね。それ食べながら待っててください」

 嬉しそうに、こくこくうなずく笑顔がまぶしい。
 思わず笑いかけて、そのままキッチンに戻り、急いで調理に入る。生姜とネギををみじん切りにして、次に鶏肉を包丁で細かく叩いて、塩、こしょう、片栗粉。全部を一つのボウルに入れて手でこねる。
 手にまとわりつく肉の冷たい感触に、そう言えば、料理をするのは久しぶりだったなと今更ながらに思い出す。
 今までは自分一人で淡々と作っていたけど、今日は怖いくらいに料理が楽しい。

 僕の方をチラチラ見ている響子さん。その感嘆が混ざったいかにも待ち遠しいという視線を受けて、全身に喜びがわき上がる。

「冷めないうちに食べてくださいね。もうできますから」

「はい」

 そう言うと、響子さんはお鍋の具にポン酢を垂らした。
 今度は僕が、白菜を口に運ぶ響子さんの方をチラチラと見る。いかにも、美味しいという感じでとろけそうな表情を見せる響子さんに、身もだえするくらいの喜びを感じる。
 ネギ。それから、豆腐。そして、

「あつっ」

 と顔をしかめて、慌てて水を飲む響子さん。
 ダメだ。可愛すぎる。これは餌付けしたくなる。
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