若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「あ、嫌味じゃないですよ。別に誰かとか付き合ったり別れたりとか普通ですよね」

 ただ、男性医師だと差し入れに手作り弁当もらった上、きっと「お疲れ様」なんて労ってもらえるだろうなーと思ったら、ちょっと羨ましくなっただけだ。

 と、思考があらぬ方向に行った瞬間、自分の前のお弁当が目に入る。そうだった。
 ふふっ。思わず笑みが浮かぶ。
 私にもお弁当差し入れてくれる人、いるじゃん。

 おにぎりの他、ピーマンと人参の豚肉巻き、金平レンコン、だし巻き卵、大根サラダ、ミニトマトの入った彩りも綺麗なお弁当。彩りだけじゃなくて味も最高に美味しいし、マジ神だろ。いや、仏?
 しかも、

「おにぎりだけにしようかと悩んだんですが、日曜日ならゆっくり食べる時間も取れるかと思って」

 という心のこもったお言葉付きだ。
 もちろん、朝は昨日の鍋の残りで〆雑炊を食べてきた。それも最高に美味しかった。
 昨日一日寝て過ごしたおかげで熱は完全に下がったし喉の痛みもすっかり治っていた。それもこれも、すべて牧村さんのおかげだと思う。

 結婚詐欺師?
 詐欺師やめて、私の嫁にならないかなぁ? 贅沢できるかは分からないけど、家族を養うくらいには稼げてると思うんだけどな。どうだろ? 貯金だって、給料使ってる暇ないからそれなりに貯まってると思う。
 そういえば、牧村さんの本名何かな? 聞いたら教えてくれるかな?
 ああでもダメだ。
 結婚詐欺師ってことは、きっとこれまでも何人も女性を騙してきているんだ。

 ……私が騙そうとした最初の一人だったら良いな。
 思わず、そんなことを考えてしまった。

「響子先生、響子先生」

「……へ? 何ですか?」

 まったく聞いてなかった。

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