若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「大丈夫? 疲れてる?」

「いえ、大丈夫です」

 風邪引いたけど、それは金・土で治ったし。牧村さんのおかげで。
 彼がいなかったら、もしかして今朝出勤できずに、今頃ここに患者として担ぎ込まれてたかも……。ホント良かった。危うく大恥かくところだった。

「だったら、今日、夜食べに行きません?」

「は? なんで?」

「夜勤ないでしょ?」

「はい。今日は外来もないし、六時で上がりますよ」

「俺もです。じゃあ、その後一杯どう? おごりますよ」

「飲みですか? やめときます」

「え、なんで?」

 なんでって、面倒だし、病み上がりだし、勤務後は弁当箱を取りに牧村さんが来ることになってるし。
 と言っても、牧村さんのことは話せない。突っ込みどころが多すぎて。

「いえ……実は風邪引いて週末に寝込んでたんで」

「え? 大丈夫ですか!?」

「大丈夫そうに見えません?」

 そう言うと石橋先生はふっと笑った。

「見えますね。でも、だったら夜も」

「いえ、夜までお付き合いする元気はないです」

「そうですか」

 ああっ! しまった!
 しゃべりながら食べてたら、お弁当味わいそびれちゃった。で、味わいそびれたまま完食してしまった。
 どれも美味しかった。すごく美味しかった記憶はある。だけど、味が思い出せない。
 ……泣きたい。
 私は空になったお弁当箱を見ながら、がっくり肩を落とした。


   ◇   ◇   ◇


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