若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「あ、改めまして、お弁当ありがとうございました。美味しかったです。温かいお茶も」

 本当に美味しかった。
 そう。あんな真心のこもったお弁当なんてもらっちゃったら、信用せずにはおれないよね?
 うん。餌付けされてる自覚はある。

「苦手な物はなかったですか?」

「はい。基本、何でも食べます」

「好き嫌いはないんですか?」

「えーっと、そうですね、美味しい物は美味しいし、不味い物は不味いというか……。食材とかメニューとかで苦手ってのは少ないですね」

「分かります! 僕も美味しい物なら何でも食べますよ」

 ちょうど信号で止まり、牧村さんはにこっと私の方を見て「同じですね」と微笑んだ。

「ところで、夕飯はどうしますか?」

 ……夕飯。
 いつもならファミレスかコンビニ飯。
 だけど、今日はどちらも食べる気になれない。多分、昨日からの手料理と手作り弁当のせいだろう。困った。

「もし良かったら、また何か作りましょうか?」

「え?」

「途中でスーパーに寄って買い物していけば、響子さんの好きな物を作れますよ」

 とても嬉しそうにそう提案する牧村さん。
 好き嫌いはないと言ったし、実際ない。だけど、手料理を食べさせてもらえるなら、食べたいものはある。何というか、思い浮かんでしまったんだ。
 厚かましいとか、いい加減にしておけよ自分とか、そんな言葉が頭をよぎるが食べたい気持ちを止められなかった。

「本当に良いんですか?」

「もちろんです。ダメならこんなこと言いませんよ」

 もっともだ。
 大体、料理している牧村さんはとても楽しそうだったし、作ると言ってくれたどの時も嘘偽りのない本気の笑顔だった。

「じゃあ、スーパー寄りますね」

「よろしくお願いします」


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