若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 スーパーでは、肉なら鶏か豚か牛のどれが好きかとか、魚介類は大丈夫かとか色々聞かれた。味噌汁は赤味噌が好きだし、亡くなった母は確か煮干しと昆布で出汁を取っていたと言うと、牧村さんはかごに赤味噌と煮干しを入れた。昆布は既に我が家に置いてあるらしい。
 明日も温めるだけで食べられるし栄養満点だからと、豚汁を作ってくれると言う。大根、人参、ゴボウ、里芋、豆腐、豚肉。

「魚とお肉ならどっちが良いですか?」

「えーっと、普段なかなか食べられないので魚がいいです」

「了解です」

 一緒にお魚コーナーに行き、どれが良いか選ぶ。

「あ、ブリだ」

 ブリの切り身を見つけて思わず手に取る。懐かしい。子どもの頃、母の買い物について行った時のことを思い出す。

「ブリと言えば照り焼きですか?」

「はい。小さい頃、好きだったんですよね〜。あの頃は魚より肉でしたが、ブリ照りは別っていうか」

「分かります分かります。美味しいですよね。じゃあ、メインはブリ照りにしましょうか?」

「はい! ぜひ!」

 他にも牡蠣フライが好きだとかアジのフライも美味しいとか、他愛もない会話が弾む。
 他にも葉物野菜を幾つか入れて、レジに向かう。
 牧村さんが財布を出すのを見て慌てて自分で出そうとするけど、笑顔で止められた。

「払わせてください」

「でも、作ってもらうだけで申し訳ないのに」

「大丈夫。響子さんに僕と付き合っても良いかなって思ってもらうためにやってることなので、遠慮はいりません」

 耳元で囁かれて、思わず赤面する。
 いや、なんなのこの人。手慣れすぎでしょ。……結婚詐欺師か。そりゃ慣れてるか。

「すみません。ありがとうございます」

 小声で答えると、

「どういたしまして」

 と満面の笑みが帰ってきた。



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