若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「響子さん、明日の朝はすみません、仕事があるので来られないんです」

「あ……はい。月曜日ですもんね」

 でも、結婚詐欺師の人って昼間何してるんだろう?
 仕事してることになってるけど本当は暇してるんじゃないかなって、少しだけ期待していた自分に気付いて驚いた。

「ご飯は保温にしてありますし、豚汁は余分に作ったのでお鍋にまだ残っています。少し温めれば食べられますので、朝食に食べてくださいね?」

「えーっと、……はい」

 普段は家で食べない。通勤途中のコンビニでおにぎりやサンドイッチを買って行って、医局で食べる。
 けど、そうだな。牧村さんが作ってくれた豚汁と温かいご飯だったら、朝少し早起きして、家で食べて行こうかなという気持ちになる。

「明日の朝、いただきます」

 それに、豚汁とご飯くらいなら、多分いつもの時間に起きても大丈夫だ。コンビニに寄る時間と向こうで食べる時間を考えたら、一本遅い電車でも行けると思う。

「明日の夜は何時までの勤務ですか?」

「あー、明日は夜勤なんで火曜日の朝までですね」

「それは大変そうですね。お疲れ様です」

「本当に、この三日、大変お世話になりました」

 感謝の気持ちを込めて深々とおじぎをすると、牧村さんは、

「こちらこそ、ありがとうございました」

 と頭を下げる。
 いや、それはおかしいだろう、どう考えてもお世話になりまくったのはこちらだ。なぜ私が礼を言われるんだ。
 慌てて顔を上げると、牧村さんは

「それで……改めまして。お試しで、一ヶ月お付き合い願えますでしょうか?」

 と、私の目を覗き込んできた。

「……え?」

「ダメですか?」

 その、まるで「捨てないで」とでも言うかのような視線が痛い……。
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