若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「えーーーーっと」

「どうしても、ダメですか?」

 言いよどむと、すがるような目で見られる。
 そして、牧村さんは私の弱点をさりげなく突いてくる。

「良かったら、明後日の夜も何か作りに来させてください」

「え?」

「それ食べてから決めてもらっても……」

「あの……」

「響子さんの好きなもの、作りますよ? 家庭料理でもイタリアンでもフレンチでも」

 ダメだ。負けた。

「また、家庭料理がいいです」

「じゃあ!」

「……お試しで良ければ」

 お試しだし、お試しだし、お試しだし。
 私の頭の中は言い訳でいっぱいだった。本当にいいのか、自分? でも、仕方ないじゃないか。美味しかったんだよ、本当に。
 昨日のお鍋もつみれもうどんも、今朝の雑炊も、そしてさっき食べさせてもらったブリ照りも豚汁も白和も。それからわざわざ家から作ってもって来てくれたお弁当も。
 すべてがあまりに懐かしくて、誰かと家で食べる温かいご飯は美味しすぎて……。
 抗えなくたって仕方ないと思う!

 私の答えを聞いた牧村さんの顔は、パアッとおかしいくらいに明るく輝いた。

「ありがとうございます!」

 そして、その次の瞬間、私は彼の腕の中にいた。
 耳元から牧村さんの声が聞こえる。

「ちょっ、ちょっと待ってください!」

 絶賛、自分に言い訳中だった私は突然のことに頭がついて行けずに、焦りまくる。

「嬉しいです!」

「いや、だから……」

 私が彼の腕の中でもがくと、ようやく腕が緩む。
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