若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
13.
「幹人? ……幹人が朝食を作ってるのか? こんな時間に?」

 日曜日の朝五時半。キッチンに父がやって来た。

「おはようございます。お水ですか?」

「ああ。おはよう。……そう。喉が渇いてね」

 そう言うので、グラスに水を汲んで手渡す。

「どうぞ」

「ありがとう」

 と、グラスの水をごくごく飲み干す父を横目に調理に戻る。
 だし巻き卵用の卵をかき混ぜていると、父が不思議そうに覗き込んできた。

「料理できるのか?」

「できますよ」

 何を今更と思い答えつつ、そう言えば、家では料理をしたことがないなと気が付く。

「一人暮らしをしている時に覚えました」

「そうか……すごいな」

「そうですか?」

 別にすごいとは思わないし、やれば誰でもできるだろうとも思う。ただ、やろうと思うかどうかだろう。僕は不味いご飯を食べるのと比べて、自分で作る方を選んだだけだ。僕にとって料理とはその程度のものだった。
 でも、今、料理を覚えておいて本当に良かったと心から思う。そんな僕はきっとさぞ緩んだ顔をしていたのだろう。

「楽しそうだな?」

 父に言われて、

「ええ、最高に」

 と答えると、父は不思議そうな顔をした。そして、ふと思い出したというように、

「そう言えば、先日の熱を出した医者は大丈夫だったか?」

 と聞いてきた。

「はい。翌日には熱も下がりましたし、今日からは普通に勤務するそうですよ」

「それは良かった」

 父はうんうん頷いている。
 そんな父を見て、響子さんのことを話したくて仕方なくなる。父は医者だ。なので、医者と付き合う心得的なものを教えてもらえるかも知れない。例えば、どんな言葉が嬉しいかとか、こういうことは言っちゃダメだとか、ぜひとも知っておきたい。
 でも、まだ「お付き合いしてください」にはOKしてもらっていない今、時期尚早だろう。
「それじゃあ、もう一寝入りしてくるよ。今日の朝食、楽しみにしてるな」

 父はそう言うと大きなあくびをしながらキッチンを後にした。
 響子さんのお弁当を作るだけのつもりだったけど、ああ言われてしまっては作らないわけにはいかない。
 幸い、材料は多めに買ってある。冷蔵庫から追加の材料を取り出しながら、時間は大丈夫だろうかと壁の時計に目をやった。


   ◇   ◇   ◇
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