若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 一緒に雑炊を食べ、一緒に家を出る準備に勤しむ。
 こんなのまるっきり夫婦じゃないか! とまた頭の中で祝福の鐘が鳴り響く。結婚式まで後何日だ? もう今日からでも同居したい。ここに住んでもいいかな? ダメか。
 そんなとっ散らかった脳内をおくびにも出さず、響子さんが歯磨きをしている間に食べ終わった後の食器を手早く洗う。

「これ、お昼にどうぞ」

 家を出る時に、作って来たお弁当を手渡すと、響子さんは本気で驚いていた。

「え?」

「お弁当です。お茶も入ってるので」

「え、本当にいいんですか!?」

「もちろんです」

 にっこり笑いかけると響子さんはお弁当とお茶の入ったトートバッグを受け取ってくれた。

 響子さんの胃袋を掴む作戦と言うのもあるけど、ちゃんとしたものをあまり食べていなさそうな響子さんに、栄養バランスの良いものを食べてほしいと言うのも大きい。
 忙しい大学病院で医師をする響子さんが自炊をするのは無理だろう。ゆっくり昼を食べるのすら難しいと思う。
 でも、そんな生活をしていたら金曜日のように、倒れてしまう。激務は変わらないにしろ、せめて食べられる日はしっかり食べて欲しい。

「おにぎりだけにしようかと思ったんですが、日曜日なら少しはゆっくり食べる時間もあるかなと思って、おかずも作ってきました。お口に合うと良いのですが」

「あの……ありがとうございます」

 響子さんは少しくすぐったそうな、はにかんだような笑顔を見せてくれた。


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