若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 その後、車で病院まで送ると言うのは断られてしまった。日曜日のこの時間に車で行ったことがないから、もしも渋滞していて遅刻するとまずいからと言われると引かざるを得ない。
 駅まで並んで歩き、別れ際に、

「じゃあ、夕方、お弁当箱を取りに行きますね」

「え? あ、はい。お願いします」

 と、今日の約束を取り付けた。
 響子さんはまた家に行くのだろうと思っているだろうけど、響子さんの職場まで迎えに行くつもりだ。
 ちゃんと駅までの道のりで、今日の終業時間や普段のシフト情報を聞き出していた。

「じゃあここで。はい、どうぞ」

 駅の改札でお弁当を渡すと(ここまでは僕が持ち運んでいた)、響子さんは

「あれ、そう言えば、牧村さん、車って言ってましたっけ」

 と今更気付く。

「行ってらっしゃい。お仕事頑張ってくださいね」

「行ってきます。はい、お弁当食べて頑張ります」

 照れくさそうにそう言って手を振る響子さんは最高に可愛かった。
 朝から、こんなに楽しませてもらって良いのだろうか?
 身悶えしそうな喜びでに包まれながら、響子さんを見送ると、僕は駅舎から外に出る。

 さて、この後の時間、何をしよう?
 本当なら響子さんの部屋で掃除したり洗濯したりの、響子さんの嫌いな家事を肩代わりしてあげたい。けど、合鍵なんてもらっていないし、まだ彼氏にすらなれていない。

 ああ、そうだ。貯まっている仕事を片付けておこう。急ぎではないけど、今日片付けてしまえば明日その分早く帰れるかも知れない。響子さんが早く終わる日は遅くても定時で帰りたい。
 とすれば、今の自分にできるのは貯まった仕事を片付けてしまうことと、そうだな、料理のレシピの確認くらいだろう。

 やることが決まったらスッキリした。
 朝から響子さんの顔を見られた喜びで、足取りも軽く僕は車を取りにコインパーキングに向かった。
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