若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
2.
 気がつくと、布団をかぶってベッドで寝ていた。
 電気がついてる。……夜?
 なんで、電気つけっぱなしで寝てたんだろう?
 やたらと身体が熱くて重い。
 あれ、私、どうしたんだっけ?
 だけど、思い出すより前に激しい空腹感に襲われた。
 ……お腹空いた。
 食欲はない。けど、エネルギーの枯渇感が強すぎて、猛烈に何か食べたいという思いに駆られる。
 食欲はないのに何か食べたい。こんなところに自分の生命力の強さを感じて笑える。

「目、覚めました?」

 ……ん?
 一人暮らしのはずの部屋に、あるはずのない他人の声を聞いて思わず辺りを見回す。空耳?
 だけど、人の動く気配がしたと思ったら、

「気分はどう?」

 という言葉が降ってきて、目を向けるとそこにいたのは背の高い男の人。……今朝、駅前でぶつかった男性だった。
 ああそうだ、と思い出す。夕方(夜?)に、自宅前で彼から何やら受け取ったような……。
 そうだ。

「……お粥」

 思わずそう口にすると、ぷっと吹き出したのは、そう、牧村さんとか言う……どっか大きな会社の社長さん(確か)。
 なぜここに?

「お腹、空きましたか?」

「はい」

 反射的に答えていた。
 お腹空いた。多分。
 正直、何かを食べたいという感覚は少ない。でも、胃が空っぽで身体に力が入らないから、何か食べてエネルギー補給しなきゃと思う。
 車だってガソリンが切れたら走れない。ガス欠前に給油しなくては。何より、車はガソリンが切れても死なないけど、人間は食べなきゃ死んでしまうのだから。

「お腹が空きすぎて力が入らないです」

 素直に答えると、牧村さんは笑って、

「準備しますね。と言ってもインスタントですが。卵粥で大丈夫ですか? 梅もありますが」

 と小さな台所に向かう。1Kの部屋についてる辛うじてコンロが二つとささやかなシンクがあるだけの小さな台所。冷蔵庫も電子レンジも年季の入った小さなものだ。
 料理なんてする暇もないから、これでも全く困らない。

「卵が良いです」

「はい。了解です」

 嬉しそうに卵粥のパックを持ち上げて見せてくれた。

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