若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 一通り箸をつけ終わった響子さんがゴクリとお茶を飲み、僕の方を見た。
 そして、満面の笑みを浮かべた響子さんは、

「美味しいです! 最高です!」

 と意気込んで教えてくれた。

「それは良かった」

 うん。本当に良かったです。
 こちらも満面の笑顔を返すと、響子さんの視線が僕の前、テーブルの上へとすーっと落ちた。

「どうかしました?」

「いえ、その食器……すみません、うちにろくなものがなかったから」

 そう言いながら、響子さんはクスクス笑い出した。
 初めて見る、心の底から溢れ出したといった笑い声。そのいきいきとした笑顔に視線が釘付けになる。なんて可愛いんだろう。

「すみません。雰囲気ぶち壊しですね」

 そう、確かに食器がおかしい。一応、味が混ざらないように気をつけはしたけど、カレー皿にご飯とブリの照り焼きとほうれん草の白和えを全部載せてしまっているし、豚汁はマグカップに入っているし。
 だけど、そんなのどうでも良い。響子さんは可愛いし、僕たちは今、響子さんの部屋で二人一緒に夕食を食べている。
 嬉しくて、そして楽しくて僕にも心からの笑いがこみ上げて来た。響子さんと一緒に笑いながら、

「でも大丈夫ですよ。味に変わりはありません」

 と伝えて、ほうれん草の白和えを口に運ぶ。
 うん。むしろ、未だかつて味わったことがないくらいに至福の味がする。

「……ですか?」

「はい」

 響子さんがそこにいる、それだけで自分が作った料理が何十倍にも美味しく感じられる。本当は味に変わりがないどころではないのだから、食器なんてどうでも良い話なのだ。


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