若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「本当に、この三日、大変お世話になりました」

 響子さんは突然、深々とおじぎをした。まるで、これで終わりのような言葉に血の気が引く。
 響子さん、三日だけじゃないです! これから先もずっと末永く宜しくお願いしたいです!
 だから、これで終わりというような顔をしないでください!

 いや、ダメだ。冷静になれ、落ち着け、幹人。
 ここで響子さんに引かれては、本当に最後になるぞ。もちろん、それでも諦める気はしないけど、遠回りする気はサラサラないのだ。

「こちらこそ、ありがとうございました」

 僕はそういうと響子さんと同じようにぺこりと頭を下げた。
 そう、響子さんと僕との明日からのために、言わなきゃいけないことがある。

「それで……改めまして。お試しで、一ヶ月お付き合い願えますでしょうか?」

 頭を上げると僕は、真顔で響子さんの目をじっと見つめた。

「……え?」

「ダメですか?」

 最初にお付き合いして欲しいと言ったのは昨日か。まさか忘れていないよね、響子さん。
 でも、響子さんは今ここで僕がこんなことを言い出すとは思っていなかったようで、かなり戸惑っていた。

「えーーーーっと」

「どうしても?」

 響子さん、ごめんね。だけど、もう離してあげられない。
 ここで「ありがとう」と言われて「いえいえ、元気になって良かったです」で終わらせてしまうなんて、そんなの耐えられるはずがない。知り合いからスタートで、そこから距離を詰めていくのも無理だ。我慢できる訳がない。

 しかも、だ。響子さんの職場にはどうやら響子さんに片想いをしていそうな男がいる。
 明日、僕は響子さんに会うことができない。そして、響子さんは明日もその男のいる職場に行くのだ。

「良かったら、明後日の夜も何か作りに来させてください」

 そうだ、響子さんにはこれだろ? と思いついて提案すると、にっこり笑顔を浮かべて響子さんの顔を覗き込んだ。

「え?」

「それ食べてから決めてもらっても……」
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