若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「あの……」

 響子さんの視線が揺れる。迷ってる? ホント、響子さん、手料理に飢えているんだね。ごめん。理由を知ってしまって、尚、その弱みを突かずにおれない僕を許して欲しい。
 だけど、その代わり、響子さんが望んでくれるのなら、一生でも響子さんの側で料理を作るし家事は全部やってあげるから。

「響子さんの好きなもの、作りますよ? 家庭料理でもイタリアンでもフレンチでも」

 そう。中華料理でも会席料理でも、何ならインド料理だって、響子さんが望むなら、食べたいと言ってもらえたら頑張るから。
 だけど、しばらく困ったような顔をしていた響子さんは、不意に吹っ切れたように表情を緩めると、

「また、家庭料理がいいです」

 と僕の目を見た。

「じゃあ!」

「……お試しで良ければ」

 なんと、明後日の夕食を作らせてくれるだけじゃなく、今、お付き合いにOKもらえるとは!
 その言葉の意味を理解した瞬間、響子さんを抱きしめていた。

「ありがとうございます!」

 響子さん、ありがとう! 本当にありがとう!
 お試しという言葉は頭になかった。お試しをお試しのままで終わらせる訳がない!

「ちょっ、ちょっと待ってください!」

 僕の腕の中で響子さんが焦っている。そんな姿も可愛い。

「嬉しいです!」

「いや、だから……」

 響子さんが僕の腕から逃れようともがく。可愛くて可愛くて、そして愛しくて仕方ない。だけど、嫌われてしまったら元も子もない。仕方なく腕の力を緩めると、響子さんはふうっと息を吐いて、

「……お試しって言ったじゃないですか」

 と口をとがらせた。
 だめだよ、響子さん、そんな顔したって可愛いだけなんだから。

「ハグはダメでした? 親しい人同士の挨拶ですよ?」

 もちろん、それが日本ではなく海外の常識だと分かった上で言う。
 だけど、お試しでも、今、この瞬間、もう響子さんは僕の恋人なんだからハグくらいはさせて欲しい。
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