高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
好きだと思う。
触れられるのも嬉しい。
なのに次の瞬間には同じくらいの熱量で逃げ出したくなるのはなんでだろう。
私を好きじゃないのなら、触れられたくない。
過去のトラウマから、ずっとそう思ってきた。
でも……。
『約束を破るから、先に謝っておく』
あの時の上条さんの瞳には、たしかに私への想いがあった。
だから……怖くなった?
自分の気持ちがわからないのなんて、初めてだった。
そんな中、桃ちゃんから〝今度上条さんとふたりで会ってきてもいいかな〟というメッセージが届き、もう私の心の中は台風を通り越し嵐状態だ。
だから、混乱していて……というわけでもないのだけれど。
私がしたミスは、部長のかっこうの餌食となってしまったようだった。
「相手の電話番号を控えるのなんて、常識でしょ? 普通に考えればわかるよね? だって、折り返しの番号がなければこちらから電話できないんだから。それを聞かないでどうするつもりでいるか教えてくれるかなぁ。まさかまたお客様からかかってくるのを待つとか? 気が長いんだねぇ。感心するよ」
お得意のネチネチ節で私を責める部長を、うんざりとしながら見上げる。
私のデスクの横に立った部長は、腕組みをして私を見下ろしていた。
楽しそうな顔に腹が立つ。