高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「不思議ですよね。あれだけ社長からの誘いには喜んで飛びついていた上、約束もしていないのに待ち伏せまでしていた高坂さんが、この一週間は社長からの連絡を無視しているんですから。高坂さんは恋愛でも他でも、駆け引きできるようなタイプだとは思いませんでした」
「別に……そんなんじゃありません」
「先週の土曜日の夜、仕事を終えたあと一番に社長は貴方に電話をかけていました。それ以降も、今日まで何度も。社長からの連絡に出られない理由があるなら、無視し続けるのではなくそれを伝えるのが誠意だと思いますが」

きっと、いつかのように上条さんと桃ちゃんが会っている間フリーになったから、その時間を使ってここで待っていたのだろう。

住所だとかはまぁ、調べようとすれば簡単に調べられるものなのかもしれないな、と適当に納得する。

あまり真剣に考えられる状態ではないので、最優先事項以外はどうでもいいと切り捨てた。

「中途半端にしているのはわかっています。私だっていつまでも無視し続けるつもりはない……」

言い終わる前に急に視界がひどく横に揺れる。
耐え切れずに横にふらついて電柱に抱き着いたまま身動きが取れなくなっていたら、見かねたのか緑川さんが私の腕を掴み支えてくれた。

自力で立っていられない私を見た彼は体調不良を悟ったらしく、態度を軟化させる。


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