高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
ー1
きちんとした恋がしたい。
そう願って、今度こそと意気込むのに土壇場で逃げ出すなんてことを、私はあと何回繰り返したら一歩踏み出せるのだろう。
別れ際呆れた声で言われた『処女でもないくせに』という言葉が、これ以上ないくらいの重さを持って上からのしかかっていた。
優しい人にそこまでの言葉を言わせてしまった私が悪い。
……わかってる。
――そんなの、私が一番よくわかってる。
「あ……っ」
真夏の太陽から降り注ぐ紫外線を受けながら、駅前の歩道を足早に歩いているときだった。
前方から歩いてきた男子高生に勢いよくぶつかられ、その衝撃でバッグが地面に落ち、中身が半分ほど飛び出した。
熱せられたコンクリート上に、ショッキングピンクのファイルやオレンジ色のペンケースなどが落ちて広がる。
歩きスマホをしていた男子高生は一度私に目を留めながらも、無言でそのまま歩き出す。
私は普通に前を向いて歩いていた。
急に方向転換してこちらに向かってきたのは男子高生だ。前を向いて歩いていた私が避けられなかったくらいの急ハンドルを切ってぶつかってきながらその態度……?と、頭にきて「ちょっと……」と呼び止めようとしたところで、今度は後ろからぶつかられる。