高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
後藤への報告 side‐上条
後藤への報告 side‐上条
《後藤には言ったのか》
《メッセージしました。今後、ふたりきりでは会えないってことも伝えました》
美波の返信を見てから、自分の文章が言葉足らずだったと気付いた。
聞きたかったのは、恋人になったという報告をしたのか、ということではなく、今後はふたりで会わないとしっかり線引きしたかということだったのだが、結果的には欲しかった答えが返ってきたのでよしとする。
いくら美波本人が〝後藤とそういう関係になるのはありえない〟と言い張っていても、男と女だ。
制限なくふたりきりで会っていたら間違いが起こる可能性があるのは、美波が言うところの〝恋愛初心者〟である俺ですらわかることだった。
ちなみに、何度も惚れ込んだり傷ついたりを繰り返してきた割に、未だに男の誘い方も知らなければわがままのひとつも押し付けてこないあいつよりは上手くこなす自信はある。
まぁ、俺の言動ひとつで顔を真っ赤に染めたり、やわらかく微笑むのは、それだけ想いが深いということを物語っていて悪い気はしないため、あいつは今後も成長などせずあのままでいればいい。
駆け引きをするずるさなど持っていなくとも、美波は今のままで十分――。
「珍しいですね。仕事中にそんな和らいだ雰囲気でいらっしゃるのは」
携帯の画面を見たままだった俺に、緑川が話しかける。