高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
だったら、無事男性と触れ合えるようになったという自信だけもらい、高望みはせず他の男性との恋愛に生かせばいいと、そういうことだ。
わかる。とてもわかるし納得もいくのだけれど……どうしても〝そうだね〟と素直に聞き入れられずに、後藤を見た。
「でも、上条さんがいい」
「いや、でも難しいってわかるだろ。別にこだわらなくても……」
「だって、番号が書かれた名刺見つけたとき、すごく嬉しくて二日酔いの頭痛をその一瞬は忘れるほどだったんだよ。それに、触れられて嫌じゃなかったのは、上条さんだからだったかもしれないし、今から恋するなら、上条さん以外考えられない」
じっと見て言った私に、後藤はややしてから苦笑いを浮かべた。
「いや、やっと最後までできたって喜びで一時的に体に気持ちが引きずられてるだけだから目覚ませよ。さすがにさ……え、まさか、たった一度寝ただけで本気で好きになった、とか言わないよな?」
まさかそんな、ありえないこと。
そんなニュアンスで聞く後藤に「正直、そう言いたくてうずうずしてる」と白状する。
後藤が、「まじかよ」と驚愕した顔でもらすから、居心地が悪くなってジンジャーエールに刺さっている黒のストローをがしがしと回した。
グラスのなかで氷が音を立てる。