高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
「バカだっていうのはわかってるよ。はっきり言えば、まだ本気で好きかはわからないけど、惹かれてはいる……と思う。だってそうじゃなかったらいくらアルコールが入っていたってあんな風に触れ合えるわけない」
色々試してもダメだったのだ。それが上条さんとなら大丈夫だった。
もう時期的に大丈夫になっていたとしても、たまたま相手が上条さんだったことには意味があると思うし、そうであってほしい。
「別に、その日のうちに体の関係になったことを正当化したいから、今頃になって気持ちがあったとか言ってるわけじゃなくて……私の性格的に、気持ちが先になければまずああはならなかったと思うし」
初めからカッコいい人だとは思っていた。
上条さんは私が関わってきた男性の中でダントツで美形だ。ミーハーなつもりはないけれど、向かいの席に座った時から気持ちが舞い上がっていた部分はある。
それが恋の方向にハンドルを切ったのは、おそらくお守りの話をした時。そこからスタートした感情は、小さな雪玉のようにコロコロと転がっていった。
ゆっくりと、でもちゃんと前に。
試食会が行われていたレストランを出る時に捕まれた手の感触とか、バーで飲んでいる時、私がするたわいない話に、優しく微笑んでくれるわけではなくても、きちんと耳を傾けてたまに視線をくれるところとか。
普段の態度からは想像もつかないほど、ベッドで漏らす吐息が熱を帯びていたこととか。
少しずつの〝いいな〟が気持ちを押して、雪玉は大きくなった。