高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
「まぁ、わかるけど。高坂は真面目なやつだし、まったく気持ちがないのに寝られるタイプじゃないとは思う。でも、だからってなぁ」
いくらなんでもその目標は無理だろ、と表情で語る後藤をじっと見る。
「たぶん、もう、始まっちゃってる。だけど、上条さんにとってはあの夜の出来事が特別じゃないってこともわかってる。その上で、もう一度会いたい。今のままじゃ頑張っていいのかもわからないし、ダメならダメでしっかり上条さんの言葉で終わらせたい……って、たかだか一晩過ごしただけの女がこんなこと言うの、わがままだと思う?」
もしかしたら、そんなのひとりで勝手に終わらせろって感じだろうか。
私が恋したせいで上条さんに余計な手間をとらせるわけだし、きちんと振ってほしいというのも私の勝手なけじめでしかない。
だから聞くと、後藤は「はー」とわざとらしく息をついてから私を見た。
「わがままだけど、恋愛って所詮、自己満足の側面が強いものだろ」
呆れたような笑みで言われる。
〝高嶺の花すぎる〟と私を止めるのはもう諦めたようだった。
「上条さんだって、面倒なら電話した時点で断るだろ。本当に嫌なら着信拒否すればいい話だ。だから高坂は、相手の事情とか考えずに言うだけ言えばいいんじゃねぇの? 久しぶりの恋なんだろ? まぁ、結果振られても慰めるくらいはしてやるから安心して玉砕しろよ」
失礼だとは思うけれど、上条さんの立場や緑川さんから聞いた上条さんの恋愛遍歴を考えれば後藤の言う通りで反論できない。
なので眉を寄せて黙っていると、後藤が首を傾げる。