高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
「で? そこまで気持ちが決まってるのになんでまだ電話してないんだよ。もう俺に相談するまでもなく答えなんか決まってた感じじゃん」
不思議そうな顔で聞かれ、目を伏せる。
上条さんがどういうつもりで携帯番号を置いて行ったのかはわからない。
でも、なにも残さなくてもいいのにわざわざ書き残してくれた部分に期待せずにはいられない。
私はこのまま期待していてもいいのか、頑張ってもいいのか、はっきりさせたいなら直接聞くのが一番だ。
それがわかっているのに、電話をかけられていない理由は……。
「でも、あれ以来、初めて話すんだよ。緊張する……っていうか、恥ずかしい」
両手で顔を覆う。
白状すると……あの夜以来、上条さんのベッドでの仕草や声が常に頭の中をチラついている。
『ん……っ』
久しぶりの行為だったからか、記憶していたよりも敏感な自分の体に戸惑いながらも必死に口を押えていると、上条さんは不満そうに眉を寄せた。
『声、我慢するな。どうせ俺しか聞いてない』
上条さんに聞かれるのが恥ずかしいというよりは、自分自身が聞いていられないという理由が大きかった。
だって、本当に久しぶりだから、甘ったるい声が自分の口から出ているのがどうしようもなく恥ずかしくて耐えられないのだ。
だから我慢していたのに、上条さんは強引に私の手を取ると、そのままベッドに一括りにして押さえつけた。