高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
ちなみに、上条さんは白のインナーに薄手の黒いジャケットを羽織り、ボトムスも黒。シンプルだけど、とても似合っていてカッコいいし、品もある。
口を開くと俺様なところがある上条さんだけれど、見た目だけだととても繊細そうに映るので、ピアノだとか楽器がよく似合いそうだなぁとうっとりと眺める。
一方の私は、淡いミントグリーンのシャツワンピース。ウエストは、ブラウンの細いベルトで締めている。前回の試食会では少し場違いな気がして恥ずかしい思いをしたので、今回のコーデは色々と考えた。
上条さんがどこに連れて行ってくれるにしても上品に見える分には困らないだろうと、襟付きで膝丈のものを選んだ。
スカートの裾部分に入っている白い糸の綺麗な刺繍に一目惚れをして奮発して買ったワンピースは、私の手持ちの中では特待生クラス。
これならどこに着て行っても問題なし……!と、思っていたのだけれど。
さすがにこんな豪華客船が舞台だとは思ってもみなかった。
問題ありかもしれない。すでになんだか居たたまれない気持ちだ。
上条さんのあとに続いてクルーザーに乗り込む。
あまりキョロキョロしていたら上条さんが恥ずかしい思いをするかもしれないと思い我慢したけれど、それでも目に映る光景が珍しいものばかりなので、自然と視線が動いてしまっていた。
中でも一番驚いたのが、エントランスでのバイオリンとピアノの生演奏だ。
優しく優雅な旋律には感動せずにはいられず思わず足を止めたのだけれど、そのうちに業を煮やした上条さんに腕を掴まれて強制的に移動させられた。