シンガポールから出られない!
男性が何かを言っているけど、パニックになった頭では英語をしっかり聞き取ることはできない。ただ、捕まってしまうと危険だと本能が叫び、震える足を必死に動かして走る。

恐怖で足がもつれそうになる中、ハァハァと息を切らしながら走っていく。これが現実ではなく、ただの悪夢であってほしい。でも、そんな期待はあっという間に砕けてしまう。

「梨花さん、ダメじゃないですか。夜にあの屋敷から出るなって言ったのに」

リシさんに追いつかれ、背後から抱き竦められる。体に回った腕は女の力ではどうしようもなくて、ただ震えながら「ごめんなさい」と言うしかなかった。

「悪い子には、しっかりとお仕置きが必要ですね」

そうリシさんがどこか甘ったるい声で言った後、何か薬を染み込ませたハンカチを口元に当てられ、私の意識は再び暗闇の中に落ちた。



目を覚ますと、港ではなく真っ白な天井が見えた。背中にはふわふわした感触があり、自分がリシさんの家のベッドに寝かされているのだとわかる。
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