石像は凍える乙女を離さない~石にされた英雄は不遇な令嬢に愛を囁く~
しばらく歩き続けていると不思議な場所にたどり着いた。
周りを囲む木々が突然なくなり、ぽっかりとそこだけ空間が切り取られたような何もない雪原。
否、その中心に誰が立っていた。
季節外れの猟に出てきた人だろうか。それとも自分と同じように何かを探しに来た人だろうか。それとも。
寒さと人恋しさから、無防備にもその人影に近づいていく。
「まぁ……」
ルルティアナはそれが誰なのか気が付いて目を丸くした。
「こんなところにトレシー様の石像があるなんて」
驚くのも無理はない。人かと思ったそれは石像。
しかもルルティアナもよく知る人物をかたどったものだ。
これより一回り大きなものが街の中心には飾られている。
バルト・トレシー。それは数十年前この国を襲った黒竜を倒した伝説の魔法剣士。
山ほどもあったという老獪な黒竜を彼は魔法と剣技で討伐した。しかしその直後、忽然と姿を消してしまったのだ。
一説には死に瀕した黒竜に呪われて命を落としたとも言われているが、理由は今も謎のまま。
だが、彼の尽力があったからこそこの国は消し飛ばずに済んだのだと、人々はバルト・トレシーを英雄として祀った。
ルルティアナも彼の英雄譚を綴った絵本をよく読んでもらったものだ。
それは幸せな母と父との記憶に繋がるもので、ルルティアナはバルト・トレシーという英雄がとても好きだった。