数分間だけ。
私はつい無意識に、令秋くんの袖をきゅっと掴んでしまった。


「んっ、ん……」


あっ、て気づいたときには、令秋くんは目をゆっくりと開いた。


「ひ、かり……?」


寝起きのふにゃんとした声が胸をぎゅっとする。

私は令秋くんの袖からパッと手を離した。



「ごめんなさい、起こして」



慌てて謝ると、袖を掴んでいた手を握られてしまった。

暗くてよく見えないけど、私は下を向く。



「光。ごめん」


令秋くんは私をゆっくりと抱きしめて、そう言った。



「え……っ?」


どちらかというと私が謝る方なのに。

なんで私が謝られているのだろうか。


「光、抱きしめるの嫌だったら言って」


「……いや、じゃないよ」

「ん……、よかった」


令秋くんの深呼吸する音だけが、部屋に響く。

久しぶりに感じる、令秋くんの体温。


背中に当たる手は、温かいはずなのになぜか冷たかった。
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