数分間だけ。
「光、ごめん。何もできなくて」


私も手を回して、令秋くんを抱きしめる。

弱く芯のない声。

私はただひたすら令秋くんを抱きしめた。



「俺、光の彼氏でいいのかな」

「えっ、え……?」



思わず、変な声が出る。

だって、それは……。


別れてってこと、なのかな。

そう思っちゃって、またぎゅっと胸が苦しくなった。



「光は優しくて、いつも周りのこと見てて、ほんとに俺にはもったいないくらいで」


どこかで聞いたことのある言葉に耳をそっと傾ける。

令秋くんは、そのまま続けた。



「最近はデートにも連れて行ってあげられなくて、不安にさせてるんじゃないかって思ってて」



文字にできない私の気持ちが、少し冷たい空気へ放たれる。


不安、なのかな。

もちろん好きでいてくれてるのかなってこともあるけど、やっぱり私が彼女でいいのかなって。

そう思ってしまう。
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