私の愛は···幻
🎹アルフレッド・ブレンデル①
ずっと、ずっと、彼女だけを見詰めてきた。
幼稚園の頃から····ずっと····
そんな俺の気持ちを知らないのは
彼女だけ。
幼馴染みの温斗には
いつも馬鹿にされていた。
『天音は、はっきり言わないと
わからないぞ。』と。
だが、天音を前にすると
言えなかった。
もし、だめだったら
幼馴染みでも、いれなくなる
それに、まもなく日本を離れる
理由をつけて
俺は、逃げ腰だ····情けない
だから、取られるんだ
バカ·····だ······
家族揃ってドイツを拠点に
あちこちを飛び回る事になる。
今は、天音のそばに入れないから
温斗に任せて、二人の元を去った。
温斗と両親と天音の両親が
亡くなったのは、たまたま知り得た。
温斗に連絡して
ほんの少しだけ寄らせてもらった。
だが、日本にいる天音の元には
行けなかった。
騒ぎになると天音に迷惑がかかるから。
泣いているだろう
苦しんでいるだろう
そばにいてあげたいのに
出来ない自分が情けなかった。
そんな日々の中で
温斗から連絡があり
天音の結婚を知らされた。
こんな自分では、やはり駄目だったのだ
と、思う気持ちと
誰かに取られた歯痒さ、悔しさから
荒に荒れた。
もう、この世の終わりみたいな
気持ちになり
自暴自棄になっていたら
温斗に
『お前が自分のせいで
そんな風になったと
天音が知ったら、どうなるか
わかっているよな。』
と、殴られて泣く泣く我慢した。
な・の・に········
なぜ、大事にされてない?
なぜ、大切にされてないんだ?
意識が戻らないと泣く温斗に
一か八かで、ピアノの音色を
聞かせてみよう。と、思い
温斗にピアノの音色を聞かせてみたい
きっと、天音にはわかるはずだと。
俺が言うと温斗は賛成して
直ぐにおばあさまの許可と
病院の許可を取ってくれた。