Rainbow Moon 〜操遇〜
「経緯がどうあれ、その瞬間に彼らはあの駅前にいたのよ。だったら、その場所、その時間から遡って調べればいいじゃない!」

「そ、そうなんです!」

抑えきれずに昴の強い声。

「大学の頃、蝶の力学や、シンクロニシティについて、色々勉強しました」

「す…昴、わかる様に言ってあげて💦」

ぽかーん としている皆様。

「すみません。蝶の力学は、ほんの些細なことが、徐々にとんでもない大きな現象の引き金に繋がるというもので、「バタフライ効果」とも呼ばれています。シンクロニシティは、「意味のある偶然の一致」の概念を言います」

「では、今回の事件は意味のある偶然…ってことか?」と、本部長様。

「それを調べんのよ!もしそうだとしたら、それを逆に辿れば、偶然性が必然性を持つ。つまり、なんらかの共通点があるはずなのよ!」

まだ漠然感が漂う本部内。

「まぁ、やってみるしかねぇな。やるからには徹底的に気合い入れてやれよ、おめぇら!」

富士本の一言は、やはり効果的であった。

「私は警察官じゃないから…昴くんを…あれ?」

自分への異様な雰囲気に言葉を止める。
咲を見つめて固まる捜査員達。

「えっ?ふ、富士本さん…彼女は…?」

「えっ?まさかみんな…知らなかったの💦」

今更のことである。

「アハッ!こんな美人で、ミニスカハイヒール👠の警察官なんて、いるわけないじゃん❗️」

アハッ…で済む問題ではない。
さらに、少々失礼である。

「な…何者なんですか彼女は、富士本さん⁉️」

「それがぁ…なんだ…え〜まぁ俺の助手ってことには変わりねぇ。そんなわけでいいだろう」

普通は良くない。

「ま、まぁ…富士本さんが言うなら…仕方ないですね。分かりました」

分かったらしい💦

「よし!っと。昴、私は別に調べたいことあるから、付き合って」

三上本部長を見る昴。

「好きにしたまえ。警察の評判だけは落とさぬ様に、ちゃんと見張るように!」

咲の目が富士本を促す。

「分かった分かった。俺はお前の運転手だったな。やりゃいんだろ、やりゃあ」

と、体面上ボヤいてはいるが、満更でもない富士本であった。



〜千種駅前のアミューズメントビル〜

「昨日の事故は凄かったみたいだな」

「男性は即死で、女性は完全にバラバラで、見分けがつかないほどだったらしいぜ」

激しい雷雨もあって、野次馬は集まらず、あの惨状の目撃者は少なかった。

「妻が夫の死体を包丁で刺すって、ヤバいっすよね。おそるべし不倫の恨みってやつか」

死因は事故による脳挫傷とのことから、笹原千佳の逮捕は、とりあえず殺人未遂とされた。
15才の七海のことは、伏せられていた。

「豊山さんは、不運としか言い様がないな。いい人だったのに」

「何が起こるか、分かんないのが人生かぁ」

「学生が人生語るな!今は楽しめ!」
店長の今井が常連の高校生を小突く。

「そういやぁ、今日は七海ちゃん来なかったね、店長。」

「まぁ、恋人があんな死に方しちゃあ、暫くは立ち直れないだろう。かわいそうに」

七海の苗字が、笹原であることは知らない。
土曜日は、よく慎吾や友達と、ゲームをしに来ていたのであった。



〜名古屋市警 特別拘置所〜

「こんちわ」

「富田さん。お久しぶりです」
 元はここの女所長であった。

「七海さんが、お母さんに会いたいって言うので、連れて来ちゃったんだけど…」

「普通は弁護人の承諾が必要なんだけど、彼女、弁護士はいらないって。だから…まぁ、いいでしょう。どうぞ」

暫くの間、富田が身元引受人となり、七海の面倒を見ていた。

監視員が広い休憩室へ案内する。

暫くして、二人の監視員が千佳を連れて来た。
子供に配慮して、手錠は外してある。

突然七海が走り寄る。
それに気づいた千佳が驚いて下がり、監視員の足につまづいて尻餅をついた。

その千佳に、七海が抱き付く。
瞬間、固まる千佳。

「七海さん、とりあえず座って話しましょ」

無防備にかがんだ監視員の油断。
七海を突き飛ばした千佳が、監視員の腰から銃を抜き取り、七海に向けた。

「千佳さん落ち着いて!」
もう一人の警備員が銃を抜いて構える。

「七海さん!危ない!」
 富田が七海をかばう。

「パンッ、パンッ」「パン!」

「うっ!」

大柄な富田の背中に穴が空き、崩れ落ちる。
警備員の撃った弾は、千佳の心臓を背中から撃ち抜いていた。

ほんの一瞬の予期せぬ出来事。
静かだった館内にサイレンが鳴り響いた。
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