Rainbow Moon 〜操遇〜
「おはよう、七海!」

途中のバス停で乗り込んで来た親友…と言うより、彼氏の草彅慎吾が隣に座る。

包帯の巻かれた頭を、心配気に見る七海。



〜 一昨日 〜

学校からの帰り道。
途中でバスを降りる慎吾は、いつもの様に七海に耳を寄せた。

「また…あした…ね…」
 小さな声で囁く七海。

「ああ、またな!」
そう言ってバスを降り、見送って家路を歩く。

ポツリポツリと降り出した雨が、瞬く間に大粒の雨に変わった。

慌てて近道の石段を駆け上がっていた時。
雷に驚いたノラ猫が、偶然足元を駆け抜けた。
うっかり足を踏み外した慎吾は、石段の角で頭部を打ち、気付いたら病院であった。

5針ほど縫ったものの、幸い大事には至らず、丁度テスト期間中であったため、休むことなく次の日の最終テストを終えた。



今日は、その結果発表の日である。

「そんな顔すんなよ、大丈夫だから」
明るく振る舞う慎吾には、もう一つの理由があった。

二人は成績優秀で、常にトップ争いを繰り広げていたのである。

いつもは、最終日に調子が悪く、未だ七海の一位を抜けないでいた。
それが、今回は快調に運び、彼なりにかなり自信があったのである。

学校前のバス停に着いた。
慎吾が先に降りる。
七海が運転手の横で、ポケットや鞄の中を探っている。

「七海さん。どうかしましたか?」

いつもこの時間を担当している運転手は、もう名前を覚えていた。

七海の方へそっと耳を寄せる。
当然ながら、普通に声が出せないことも分かっていた。

「てい…き、忘れちゃ…ったの…」

その囁きに、一瞬心が揺れた。

「いいですよ。まだ期限があるのを知ってますから。」

優しく微笑む。

「七海、早くいくぞ」

まだ若い運転手に、軽く頭を下げて、バスを降りた。


学校に入ると、既に結果が貼り出されており、生徒達が集まってざわめいていた。

二人が来ると、そのざわつきが静かになり、自然と道を開ける生徒たち。

「ぃよっしゃーッ❗️」

慎吾のガッツポーズを合図に、一斉にざわめきが戻って来る。

「七海!今回は僕の勝ちやわ」

差し出された右手を素直に握り、笑顔の七海。
気を遣って少しずつその場を離れる生徒たち。

始業の予鈴が鳴った。
< 3 / 34 >

この作品をシェア

pagetop