明日が終わる、その時まで【完】



「おい、聞いてんのか」


不機嫌な様子で私を睨みつける柴田を、初めて、可愛いやつだと思った。

きっと、柴田の性根(しょうね)は素直なのだろう。

お母さんが突然亡くなって、それも自殺という形でこの世を去って、お父さんとも向き合うことがないまま、丸かった心がどんどんとがっていっただけで。

本来の柴田は、福沢くんが言っていたように優しいのだろう。


たったの八年とはいえ、お母さんにたくさんの愛情をもらっているのだ。

どんなにつっぱって、自分を偽ったって、心に与えられ続けた優しさは体に染みついて一生消えない。


自覚がなくても、それは行動の端々(はしばし)に出てしまうものだ。



柴田、あまりにも嬉しそうなあんたの顔を、私も見てみたいよ。

私だけじゃない。

福沢くんも、北高のAとBだって、見たいと思っているはずだ。


きっと、お父さんも、佳代子さんも……そうであってほしい。



そのためには、目の前の課題を一つ一つクリアにしていかなければならない。


「柴田、怒らずに聞いてほしい」


ずっと黙っていた私が、ようやく口にした言葉に、


「なんだよ改まって」


前のめりになっていた柴田は、少しだけ体を引いた。

私は神妙な顔でこう告げた。



「次は他殺の線で調べてみる」


「…………はあ?」



あまり表情を変えない柴田の見事な呆れ顔だった。





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